弁護士 古川拓からのメッセージ
「とりあえず内容証明」にご注意(2)
(1)では,「内容証明」郵便を出す,時と場合についてのお話をしました。
今回は,「内容証明」を出すときに注意すべき「内容」について説明したいと思います。
※以下「内容証明」とは,「内容証明・配達証明付通知書」の略称を意味します((1)でも同様)。
らくさい法律事務所で「内容証明」を作成する場合,
「そもそも必要な場合でなければ出さない」
「最低限必要なこと以外は書かない」
ことをモットーにしています。その理由について,以下順番に説明したいと思います。
1.「内容証明」は高い
まず,単純に言えることは,内容証明郵便は費用が高いということです。
これは弁護士に支払う費用ではなく,郵便局に支払う費用のことです。
通常の郵便料金の外に,内容証明料,配達証明料,書留料などが加算されていき,ちょっとした文書でもすぐに2千円以上かかってしまいます。
しかも,内容証明料は出す手紙の枚数に比例するので,手紙が長くなればなるほど料金は上がっていきます。
もちろん,必要なのであればやむを得ない出費だといえますが,本当に必要なのでしょうか。
従って,「なぜ内容証明を出すのか?」ということについて,これを出す前にその意味や効果をしっかり踏まえるべきだと思います。
2.本当に「内容証明」は必要? 証明する必要がない場合は原則不要
次に,内容証明を出す必要があるかどうかを,一度検討してから出すべきだと考えています。
結論から言うと,内容証明を出す意味は,次の2点に尽きます。
①(手紙を出す)相手方に伝えた内容を,後で証明する必要がある場合
②その手紙が相手方に届いたことを,後で証明する必要がある場合
逆に言うと,①②でない場合は,「内容証明」を出す必要はありません。
具体的な例をいくつか挙げて説明します。
(1)家賃を支払ってくれない賃借人に出て行ってもらうための解除手続 → 必要
大家さんは賃借人と賃貸借契約を結んで家を貸しています。
この場合,仮に賃借人が家賃を支払ってくれない場合,賃借人に当然に出て行ってもらえるわけではありません。
賃借人に「●●日以内に滞納賃料を支払ってくれないのなら,契約を解除します」と通知して契約を解除しなければいけません。
これをしないで賃借人を訴えても,裁判所は「まだ契約を解除していないので,解除してから来て下さい」と言うでしょう。
そこで,賃借人から「解除だなんて言われたことがない」「そんな通知は受けていない」などという逃げ口上を言われないために,
①賃借人に「支払わないと解除する」という内容の意思を表示したこと(内容証明)
②それが賃借人に届いたこと(配達証明)
を証明する必要があるのです。
従って,この場合,「内容証明」を出すことが必要であると言えるでしょう。
(2)交通事故で相手から被害を受け,損害金を請求する場合 → 原則不要
このような場合,相手方に通知を行うことが必要であるようにも思えます。
しかし,結論から言うと,特に「内容証明」を送る必要はないと考えらえます。
交通事故で受けた損害を賠償してもらう場合,法律上あらかじめ相手に通知する必要はありません。
後になって,「●●日に相手に通知した」とか「相手がその通知を受けた」ことを証明する必要はないのが通常です。
従って,普通郵便で相手に通知を送り,その返答を待って交渉を始めるというやり方で差し支えないと思います。
<※例外その1>
損害賠償請求権が消滅時効にかかる可能性がある場合には,時効中断のための催告をする必要があります。
その場合は,「相手に通知したこと」「それが相手に届いたこと」を証明する必要があり,「内容証明」が必要な場合と言えるでしょう。
<※例外その2>
お客様のお気持ちとして,相手に礼を尽くしたいと考える場合などです。
「内容証明」を送ること自体には,「2.」で説明した以上に,特に法的な意味はありません。
ただ,世間一般には,相手に「正式に」通知するというイメージがあることは否めないため,お客様のお気持ちに添って,いわば「ご挨拶」代わりとして送る場合もあるかと思います。
ただし,その場合(1)で書いたように,相手に逃げられる恐れがあるかどうかを考慮する必要があるでしょう。
(3)離婚相手に弁護士が受任したことを知らせる場合 → 原則不要
一般に,話し合いを始めたり,調停を起こしたりしたことを,後で証明する必要はありません。
そこで,このような場合の相手方への通知方法として「内容証明」を用いる必要はないと思います。
ただし,
①お客様が直接相手方と接触すること自体したくない場合で,
②相手方が弁護士を飛び越えて無理矢理連絡を取ろうとする可能性がある場合,
には,「内容証明」を送付しておく必要があるかと思います。
将来,「こちらが弁護士を通して話をして欲しいと連絡したのに,相手方は本人と無理矢理連絡を取ろうとした」ことを証明し,相手方の悪質さやこちらの精神的苦痛を証明する必要が生じる場合があります。
このような場合は,「内容証明」を送付しておくと良いでしょう。
また,前項で書いた<※例外その2>の場合も,「内容証明」を用いても良い場合かと思います。
3.そんなこと書いてしまって,後で大丈夫? デメリットがある場合は有害
次に,「最低限必要なこと以外は書かない」という点について説明します(これは,相手方に出す文書全てについて言えます)。
一言で言ってしまうと,「内容証明は自分自身も縛る」ということです。
「内容証明」は,相手との法的なやりとりを開始する序盤に出されることが通常です。
しかし,そこでこちらが書いたことは有利・不利を問わず全て証拠として残るのです。
とすると,後に新しい事実が判明して方針転換の必要が出たとしても(これはしばしば起こることです),一旦書いてしまったことに反する言動をとることがとても難しくなってしまいかねません。
したがって,必要なこと以外の事実などを長々と記載することで,自分自身の将来の言動を縛ってしまう危険性があることを十分に認識すべきだと思います。
実際に私自身,長々と書かれた「内容証明」を不用意に送りつけてきた相手方が,争いの終盤で自己矛盾して敗訴した事例を何件も目にしています。
不必要な内容証明の具体例は,事実経緯についての自分側の認識を長々と述べる「内容証明」です。
相手方が各事実について違う認識を持っていたり争ってくる場合には何の意味もありません。
話し合いの前提としてこちらの認識を相手に伝えるためであれば,口頭か普通郵便で十分だと思います(相手が話し合いに応じる気があるのなら,そもそも形式にはこだわらないはず)。
逆に,それ以降こちら側がその内容に反する言動をとることが難しくなる危険がでてしまい,方針転換できなくなってしまいかねません。
嘘をつくべきではありませんが,相手の言動に応じてこちらの物言いを考えるのは争いごとの基本だと思います。
不用意な「最初の一手」によって,本当なら詰むはずの詰め将棋が詰まなかった,という事態はできる限り避けたいものです。
また,こちらの考えや出方を相手に不必要に知らせてしまう,という点でも,感心できないやり方だと思います。
もちろん,詳細な「内容証明」が必要な場合があることを否定はしません。
しかし,その場合,とても慎重に言葉を選ぶ必要があると考えています。
※上記はあくまでも一般論ですので,常に例外がありうることについてご留意下さい。
具体的にお客様ご自身の事件において「内容証明」が必要になるかについては,弁護士にご相談いただくと良いでしょう。
らくさい法律事務所では,
①お客様の事件において「内容証明」が必要かどうかの検討と,
②お客様の気持ちに添った事件進行を心がける視点から,
「内容証明」を出すかどうかをご相談させていただきたいと思います。
(2008/09/25)