弁護士 古川拓からのメッセージ
事実解明や損害賠償請求に向けて(1) 刑事記録の活用
交通事故をはじめとする様々な事故などで,被害に遭われたお客様の依頼を受け,事実解明や賠償請求を行っています。
多くの場合,被害に遭われた方の手元には,何が起こったかの事実を解明する資料や証拠があまりないことがほとんどです。
そこで,ご依頼を受けた後,まずはそういった資料や証拠を集めることから仕事がはじまります。
その際,警察などの捜査機関が捜査を行った事件に関しては,彼らが集めた捜査資料や記録を手がかりにすることがあります。
もちろん,一般的に言うと,捜査機関の記録については,例えば警察に直接交渉しても「捜査の秘密」を理由に拒否されてしまいます。
しかし,刑事事件として捜査を行った記録で,検察官に送致(「送検」といいます)されたものについては,被害者の方であれば,
①起訴(※1 後述)されなかった事件
→実況見分調書のみ
②起訴された事件
→①に加え,証拠として裁判所に提出された記録や公判(刑事裁判)での証言記録など
について,検察庁や裁判所に請求して,ご覧になったりコピーしたりすることが可能になります(「閲覧・謄写」といいます)。
この中で,特に②で大きいのは,加害者を含めた関係者の供述調書を見ることが可能になる点です。
事件の事実を解明していく上で,客観的な証拠も大事ですが,関係者が当時どのように考え行動していたかについては,やはり本人の話を聞くことが一番です。
しかし,多くの場合,被害者が直接加害者に対して事実関係を問いただす機会はほとんどありません。
また,仮にあったとしても,加害者は自分に都合の悪いことを正直に話さない,というのが残念ながら多くの場合の現実です。
しかし,警察などの捜査機関は,強大な国家権力を背景に捜査を進めます。
その中で,事件が発生して間もない時期に,加害者など関係者の生々しい声を調書に記録していることが多く,その調書を見ることは,被害者の方ご自身が事実を知る上で非常に役に立ちます。
例えば,私が取り組んでいる西武鉄道事件においても,事実を証明していく上で刑事記録がとても参考になりました。
西武グループの総帥であった堤義明氏ほか関係者の膨大な量の供述調書を取り寄せ,彼らの長年の違法な行為がどのようにしてなされ,事件の発生に至ったのかについて分析した上で,立証活動を行いました。
その結果,裁判所も,彼らの違法行為を詳細に認定した上で,民事上の賠償責任を認めるに至ったのです(※2 後述)。
このように,様々な事件の被害者の方にとって,刑事記録をどこまで見ることができるかは,とても大きな問題だと言えるでしょう。
先ほどもご説明したように,①事件が起訴されていない場合は客観的な事故状況を記載した実況見分調書くらいしか見ることができなくなるので,②起訴がされた場合と大きな違いが出てくるのです。
このような角度から見てくると,被害者の方が加害者に対する刑事裁判を望まれるのは,単に加害者を罰して欲しいからだけではなく,より事実が明らかになる
ために必要だからである,ということが,わかっていただけるかと思います。
私が様々な事件に関係して実感しているのは,多くの被害者の方が,
「何が起こったのか」
「なぜこういうことになってしまったのか」
という事実の解明を強く望んでおられるということです。
それは,事件で被った心の傷から立ち直っていく過程において欠かせないといっても過言でない大切なことだと思っています。
そこで,様々な方法を用いて,事実解明に向けた事件活動を行っています。
次回は,被害者の方側から直接裁判所に働きかけて行う証拠収集方法についてご説明したいと思います。
※1 検察官が,犯罪を犯したと考える人を裁判所に訴えることで,これによって刑事裁判が始まります。
※2 その後,被告である堤氏や西武グループ各社が判決を不服として控訴したことで,東京高裁に審理の場が移っています。
(2008/09/24)